1. 従来型の施設で起きてしまった「悲しい変化」
私が以前勤めていた施設は、いわゆる「従来型」で、どこか病院のような雰囲気の場所でした。
そこではどうしてもスタッフと利用者さんとの関わりが少なくなりがちで、多くの入居者さんが一日中テレビを見て過ごされていました。
そんな中、新しく入ってきたある利用者さんがいました。
入居した当初は、身の回りのことはご自分ですべてできていた方でした。
しかし、刺激の少ない環境の中で、日を追うごとにその方の表情はどんどん暗くなっていき……。
そして半年後には認知症の症状が大きく進んでしまい、「遊び食べ」が始まってしまったのです。
その姿を目の当たりにして、私は「環境が人の状態をここまで変えてしまうのか」と強いショックを受けました。
2. 環境を変えたら、その人が「取り戻した」もの
この出来事をきっかけに、私たちスタッフは「このままではいけない」と意識を大きく変えました。
ただ日常の作業としてのケアを行うのではなく、もっと積極的に声をかけよう。
そして、ご家族から「この人は昔、何をしていたのが好きだったか」を聞き出すことにしたのです。
ご家族に話を聞くと、その方は昔「編み物」をずっとされていたことが分かりました。
そこで、さっそく編み物のセットをご家族と一緒に用意してプレゼントしてみたのです。
すると、どうなったと思いますか?
それ以降、その方の認知症の進行はピタッと緩やかになり、表情がみるみる明るくなっていきました。
それから1年が経った今でも、元気にスタッフや他の入居者さんと会話を楽しまれ、着る服もご自分で選んでご自身で着脱される日常を変わらず継続して過ごされているのです。
この変化を見たとき、
「人って、その人らしさや『役割』を取り戻すと、こんなにイキイキするんだ」と、介護の仕事の奥深さを強く実感しました。
3. 認知症が進行しにくい施設・環境の共通点
この実体験からも分かるように、認知症が進行しにくい(あるいは穏やかになる)施設には、明確な共通点があります。
① 「できること」「その人らしさ」を奪わない
「危ないから」「手間がかかるから」とすべてを肩代わりするのではなく、その人が好きだったことや生活の中での役割をそっと引き出してくれる介護環境があるかどうか。
② スタッフとの温かいつながりがある
マニュアル通りの作業をこなすだけでなく、一人ひとりの人生の背景を大切にし、「あなたを見ていますよ」という安心感を伝えられる関わりがあるかどうか。
4. 施設選びと、ご家族に伝えたい大切なこと
施設選びに迷ったら、見学の際に「お年寄りがどんな表情で過ごしているか」「スタッフが笑顔で雑談できているか」をぜひ見てみてください。
そして、もう一つだけ現場からお伝えしたいことがあります。
施設に入居されたあと、時々「お任せだから」と、ほとんど面会に来られなくなってしまう方を見かけることがあります。
ですが、ご家族が来てくれたときの利用者さんの嬉しそうな顔や、表情がパッと明るくなる瞬間を、本当にご家族の皆さまに見てもらいたいくらいです。
施設に預けたあとも、ご家族が面会に来て一緒に思い出話をしたり、スタッフにその人の好きなことを共有したりすること。
それが、何よりも一番の認知症の進行防止であり、最高のケアになります。この実体験が、同じように悩むご家族の少しでも安心材料になれば嬉しいです。


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