1. なぜ「待って」と言ってしまうのか?現場のリアルなプレッシャー
フロアで利用者がふと立ち上がった瞬間、焦る気持ちからつい口から出てしまう「待ってて」「座っていてください」という声かけ。介護の現場にいる人なら、誰もが一度は口にしたことがある言葉だと思います。
「転倒させてしまったらどうしよう」「もし事故が起きたら、自分の責任になってしまうかもしれない」。そんなプレッシャーや恐怖心が頭をよぎるからこそ、反射的に制止してしまうんですよね。周りの先輩やスタッフも同じように声をかけているのを見て、これが「安全を守るための正しい対応」なんだと自分に言い聞かせていました。でも、心のどこかではいつもモヤモヤとした自己嫌悪が消えませんでした。
2. あの日の「もどかしそうな顔」が忘れられない
以前、立ち上がった利用者にいつものように「待って」と言ってしまったことがあります。その人は私の声を聞くと、逆らうこともせず、言われるがままにスッと素直に席に座り直してくれました。トラブルもなく、その場は「安全」に収まりました。
だけど、そのときに見せたどこか言いたそうな、もどかしそうな顔が、私の脳裏からどうしても離れませんでした。「あ、私は安全を守るという大義名分のもとで、この人の『動きたい』『行きたい』という自由を無理やり抑え込んでしまったんじゃないか……」。ハッと気づいたとき、胸が締め付けられるような感覚になりました。
3. 「どうしましたか?」と聞くことを癖づけてみた
それから、「安全」と「尊厳」のバランスにすごく悩みました。転倒の危険はもちろんゼロにはできないし、かといってすべての行動を制限するのも違う。そこで、まずは自分の行動を少しだけ変えてみようと思いました。
それは、「どうしましたか?」と「何がしたいのか」をまず聞くことを癖づけること。反射的に「待って!」と言いそうになる自分をグッとこらえて声をかけるようにすると、トイレに行きたかったのか、お茶が飲みたかったのかなど、利用者の本当の目的が見えてくるようになりました。
4. もし自分がその立場だったら?
日々のケアを振り返る中で、利用者の立場に立ってみることの重要性についても、痛感するようになりました。
「もし自分が何かをしたいと思ったときに、自分でそれを十分に叶えられないもどかしさがある中で、他の誰かに強い口調で制止されたらどういう気持ちになるだろう?」。十中八九、いい気持ちにはならないはずです。それなのに私たちは、「転倒リスク」という都合の良い言葉を盾にして、それを平然とさせてしまっていました。
5. 「嫌な顔」が減ってきた最近の変化
「どうしましたか?」と声をかけ、相手の気持ちに寄り添うようになってから、不思議と利用者に嫌な顔をされる回数が確実に少なくなってきたように感じます。無理に自由を奪うのではなく、「じゃあ、安全に移動するためにどうサポートしようか」と一緒に考えられるようになりました。
もちろん、現場はいつだって人手不足で時間に追われています。今でも咄嗟に声をかけて後悔することだってあります。それでも、「あのときの顔」や「相手の気持ち」を忘れずに、立ち止まって考えられる介護者でありたいなと思っています。
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